当研究室では、無線通信・電波の応用技術に関する研究を行っています。大きく分けると、
- 電波伝搬に関する研究
- 通信方式に関する研究
に分けられ、それぞれの研究グループを構成して研究を進めています。
1. 電波伝搬G
携帯電話システムは「セルラ通信」と呼ばれる通信システム形態が用いられています。セルラ通信は、複数の基地局を適切な間隔で設置することにより所要エリア全体をカバーするとともに、離れたセル(一つの基地局のカバーエリア)において一つの周波数チャネルを繰り返し使用可能とすることにより、限定された帯域幅の周波数を効率的に利用可能としています。このようなシステムにおいて、安定かつ信頼性の高いサービスエリアを構築するとともに、無線ネットワークを効率的に設計・建設するためには、電波伝搬特性(=電波の飛び方)を正確に把握して、それを精度よく推定可能とする技術が必要になります。当グループではこのような移動通信環境における電波伝搬特性の研究に取り組んでいます。
より精度の高い推定を行うことは、電波伝搬現象の発生メカニズムの理解・支配的な伝搬路の同定、につながります。一つのシステム・環境での伝搬特性の理解が、他の伝搬特性につながることは多く、それらを積み重ねることにより電波伝搬特性を直感的に理解できる、言い換えれば「電波が見える」ようなレベルとなることが求める究極の目標です。このような原理・現象の理解は、他の多くの研究や技術開発につながるものと考えられます。当グループの研究活動を通して、研究者・技術者としての基礎能力の育成を目指しています。
また、当グループでは、電波伝搬特性を活用した各種の応用技術についても研究を行っています。無線伝搬路特性を活用したセキュリティ技術やアンテナ・伝搬特性を活用したセンシング技術などを研究しています。
2. 通信方式G
内閣府の第5期科学技術基本計画において、IoT(Internet of Things)端末により、所望の大規模データをあらゆる箇所から集約することで様々な知識や情報を共有し、ビッグデータ解析を通して今までにない新たな価値を生み出すSociety 5.0の実現が喫緊の課題として位置付けられています。Society 5.0の実現には、「サイバー空間(仮想空間)」と「フィジカル空間(現実空間)」の高度な接続が必要です。その接続には、「ワイヤレス空間(無線空間)」の高度化・多様化が急務となっています。この基本計画は、グローバル規模の潮流を鑑み策定されたものであり、国内外を問わず全世界のICT(Information and Communication Technology)の研究者・エンジニアが何らかの形で携わる課題です。
世界各国の基本計画とユーザの潜在的欲求を背景に、5Gではこれまでのヒトとヒトとを高速回線で繋ぐという目標(eMBB: enhanced Mobile BroadBand)とは別に、大量のモノとモノを同時に接続する(mMTC: massive Machine Type Communication)、また高信頼で高即応の通信(URLLC: Ultra Reliable Low Latency Communication)の実現も目標に掲げ、サイバー空間とフィジカル空間を繋ぐワイヤレス空間としての情報基盤の根幹を担うことが期待されています。5Gによってどのようなサービスを享受するかは多くのユーザの大きな関心事となっている一方、ワイヤレス通信に携わる研究者・エンジニアは6G(第6世代)においてどのようにイニシアチブをとるか、虎視眈々と計画を練っている最中です。
通信方式Gでは、サイバー空間からの視点だけではなく、フィジカル空間と接続するためのワイヤレス空間からの視点も含めてSociety 5.0のICTシステムを設計することができる、言い換えると、通信方式を中心に据えてICTシステム全体を統合デザインすることができる研究者・エンジニアの育成を目標としています。この統合デザインでは、「AI(人工知能)の力を借りたデータ駆動最適化」と「統計信号処理のモデル駆動最適化」を融合することを特徴としており、6Gの通信システム開発への貢献が期待できます。主な研究課題は、
- 通信のための統計的多次元信号処理(数理統計 × 通信方式 × AI)
- 深層学習を用いた位置推定・環境認知技術(センサネットワーク × 通信方式 × AI)
であり、これらの課題について、新しい技術を考案し、それを計算機シミュレーションやソフトウェア無線機によって性能を定量的に評価し、その有用性を確認しています。